あるM&Aの記事を読んで思い出したこと

日常の話

社員の質

先日ネットニュースの割とニッチな分野の記事に某DX推進企業のA社による保険/金融業SIerのT社のM&A(子会社化)についてありました。

ちょっと気になったので調べてみたんです。

そこで今日は私自身の「ある苦い実体験」を交えながら、ざらっと書きます。

さて、多くのM&A専門誌や投資家は今回の買収を「生命保険業界という強固な顧客基盤を約9億円で獲得した戦略的成功」と評価しています。

しかし、私はそう手放しには喜べない、むしろ「最悪の事態になれば、A社の経営基盤そのものを揺るがしかねない重大なリスク」と思っているんです。

なぜそう言い切れるのか。

そのキーワードは、組織の学歴ギャップ、そして何より「社員が持つエリート意識」なんです。

戦略的には完璧。

しかしM&Aは「感情」で動く箇所が多いんですよね。

まず前提として、A社の戦略自体は非常にスマートです。

DX化を先導してきた会社ですから、それなりに技術力もあり、エリートが多いDX集団です。

私の甥も未経験者なのですが、なぜか採用されたのです。

私には理解できなかったですね。

これだけ高い技術力を持つ会社が未経験者を採用するなど、あり得ない。

そう感じたんです。結局は学歴で採用されたのですが、それどういう会社なんだ?

それからA社という企業をウオッチしてきました。

ねらい目は?

AIやDX支援を得意とする同社にとって、これまで手薄だった「生命保険・金融業界」の強固な顧客基盤を持つT社を傘下に収めることは何となくパズルのようなものに感じます。

SIerが良くする手法ですが、これが成功することは極めて少ないです。

T社が持つ生保特有の業務知識(ドメイン知識)に、A社の最先端AI技術を掛け合わせれば、他社が真似できない高付加価値なソリューションが生まれるんでしょう。

こんな感じでほとんどの人が絵に描いたシナリオだと思います。

もちろん、私も最初はそう思ったんです。

しかし、ふと私の時の合併劇を思い出すと、同じような気がしたんです。

なぜなら、システムを動かし顧客と信頼関係を築いているのは所詮「人間(社員)」だからです。

要は合併というのが人間の色が混ざりあわないといけないんです。

ここで注目したいのが、両社の「採用背景と学歴」の明らかなギャップです。

ちょっと調べてみました。

• A社

東大・早慶・MARCH(他5校)といった上位・中堅大学から積極的に新卒を採用しています。

だから未経験の甥でも採用されたということが解ります。

ここは新興形のSIerに多いエリート意識の企業なんだと思いますね。

• T社

学歴不問。高卒や専門卒も含め、生命保険会社の泥臭いシステム保守運用の「実務経験」を最重視してきた叩き上げの集団なんです。

この「最先端DX 対 レガシー保守」という構造を見たとき、何となく私の前職を思い出したんです。

かつて私が身を置いていた、東芝系子会社でのグループ合併の失敗劇と、あまりにも酷似している気がしたんですね。

目撃した「エリート意識」という病

当時、私が在籍していた東芝の通信子会社(元東芝通信テクノス株式会社)が今回と全く同じような「親会社と子会社」「上流と下流」の統合が行われました。

合併したのが吸収元が東芝エンジニアリング株式会社(現東芝ソリューションズ株式会社)です。

東芝エンジニアリングは東芝グループでは言わば「㈱東芝」と言って良いくらいの規模でプロパー社員はほぼ有名国立、私大など言わばエリート集団なんです。

当時、私は社内制度委員会の東芝通信テクノス側の代表などをしており、合併時から東芝エンジニアリング側との給与面等の「制度」について協議していたんです。

でも、その場でも露骨に相手側代表は上から目線であり、給与面でも格差をつける提案をするなど、私たちの会社をお荷物というニュアンスだったんです。

もちろん、それは私が受けた印象ですが、流石に誰が居てもそれは感じるでしょう。

経営陣は通信とハードウェアの融合などで「シナジー効果」を狙い、完璧な計画書を掲げていましたが、結果は凄惨な機能不全(失敗)を起こしたんです。

合併を内部から崩壊させた真の引き金は、財務のミスでも、戦略の誤りでもありません。

社員の心に宿った「エリート意識」の衝突でした。

高学歴で最先端のバリューチェーンを担っている自負がある側の社員は、無意識のうちに相手を「レガシーな仕事しかできない」と見下すような、マウンティングを取ってしまうんです。

一方で、現場を泥臭く支えてきた側の社員は、「理屈ばかりで現場の苦労を知らないエリートが何を見当違いなことを言っているんだ」と、強烈な反発心とプライドで心を完全に閉ざしてしまったのです。

結果として、現場のノウハウはブラックボックス化され、優秀なキーマンから順番に競合他社へ転職。

もちろん、私も退職したその1人だったのかもしれません。

組織はバラバラになり、経営陣は現場を一切コントロールできなくなりました。

完璧だったはずの買収シナリオは、ただの「エリート意識のぶつかり合い」によって、数億円規模の損失を生むだけの負の遺産へと変わったのです。

結局は3期連続赤字で親会社の株式会社東芝からカンパニーの人員整理を打ち付けられ、解散です。

事実上は倒産なんですね。

A社に待ち受ける「最悪の崩壊シナリオ」

この実体験のフィルターを通して今回のA社のM&Aを見ると、全く同じ地獄が再現されるリスク(PMIリスク)が極めて高いと言わざるを得ません。

T社は過去に、最も軽い懲戒処分である「けん責」を巡って、会社を相手に労働裁判(T社事件)を起こすほどのタフで地の気の強い組織風土を持っています。

組織マネジメントへの警戒心が根底にある彼らの現場に対し、A社側の若手エリート社員が「最先端のAI技術を教えてやる」という上から目線で接してしまったら、その瞬間にゲームオーバーです。

経営陣が今すぐ捨てるべきもの

M&Aの成否を分けるのは、契約書の数字ではなく、買収後に現場で交わされる「言葉遣い一つ、視線一つ」です。

A社がこのリスクを回避し、経営崩壊を防ぐためのデッドラインはただ一つ。

自社社員の「エリート意識」を徹底的にへし折り、T社が長年泥臭く培ってきた実績に対して、心からの敬意(リスペクト)を払えるかどうかです。

「学歴が高いから」「最先端のAIをやっているから」そんなもの全く優秀なのではありません。

顧客のシステムを絶対に止めずに支え続けてきたT社の泥臭い強さこそが、9億円の価値の本質なのです。

東芝グループが過去に証明してしまった「エリート意識による失敗の歴史」を、A社がベンチャーのスピード感の中で克服できるのか。

一人の元当事者として、今後の統合プロセスを注視していきたいと思います。

以上

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